2000年4月の介護保険制度発足から十年余が経ちました。この間、「利用者が必要に応じてサービスを選べるようになった」 と歓迎の声があがる反面、当初指摘された問題点(@国民への一層の経済負担 A介護従事者への一層の労働負担 B事業者として福祉と営利を両立させる困難)は依然解決されないままです。そんな中でも現場の従事者は 「必要な所に必要な介護を」 と奮闘を続けています。その一人で、訪問ヘルパーとして8年余の経験を持つ森真美(42)さんを港医療生活協同組合ヘルパーステーション(磯路)に訪ね、仕事の中で感じる問題点や苦労、喜びなどを訊きました。
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平石典夫さん宅を訪れた森真美さん。仕事にはやりがいを感じるが、制度の制約から来るもどかしさもあるという |
森さんは、父母が共に障害を持つなど障害者に囲まれた生活を送ってきたことから、「そうした経験を生かせたら」 と33歳で介護福祉士の資格を取得。2002年に港医療生協ヘルパーステーションに就職しました。同ステーションにはヘルパー約20人が在籍し、一人が2〜8人を担当していますが、その中で森さんは訪問介護一本で働いてきました。
訪問介護には生活援助(掃除・洗濯・買い物・調理など)や身体介護(食事・入浴・排泄・衣類の着脱・体の清拭(せいしき)など)がありますが、これらを一通りこなし、少しの関わりも含めると、これまでの訪問家庭は数百に上るといいます。2009年には 「介護全般に通じておくことは自分のプラスになるし訪問介護にも生かせるから」 とケアマネジャーの資格も取得しました。こうした経験の中で感じたことを訊いてみました。
◆介護保険制度そのものについてどう思いますか
制度発足の趣旨・目的は良かったと思います。必要な介護を利用者が自由に選び、それに見合う料金を支払って提供してもらうというのは、本人にとっても家族にとっても気兼ねなく利用できると思うからです。
◆仕事の中で 「辛い」 と感じることはありますか
訪問が集中する時は、やはり体力的にも精神的にもきついですね。でも私はこの仕事が好きなので、基本的には楽しんで(笑)やっています。それよりも実際の運用面で 「辛い」 と感じることが多いです。
例えば 「生活援助」 は1時間半までと制限されているので、それ以上はサービスとして加算されません。また同居家族がおられたらその人が援助できるということでプランそのものが立てられないことがあります。
また電燈の傘や換気扇の汚れを 「きれいにしてあげたいな」 と思っても、それらは年に何度かの大掃除の内容であり、日常の 「生活援助」 としては算定されないし、そもそも介護プランに組み込めないのです。
また通院介助の中では、単なる見守り(待合室で会話するなど)や診療中の援助(耳の不自由な高齢者に医師の説明を仲介してあげる、点滴中にトイレまで付き添ってあげるなど)は算定されません。
それにヘルパーの絶対数が不足しているので、利用者が 「来てほしい」 と望まれる時に訪問できないことがあるのも辛いですね。
◆逆に喜びややりがいを感じるのはどんな時ですか
利用者の方から笑顔を頂いた時が一番です。例えば平石典夫さん(81)は、私が今春まで1年半訪問させて頂きました。戦後、淡路島から単身港区へ来て瓦業を営み、業界の理事や町会長も歴任された方です。仕事や人生に対する誇りと共に、人に頼らないという気概も持っておられましたが、体調を崩して生活に支障を来すようになり、ケアマネが時間をかけて説得する中で訪問介護の導入に至りました。最初は互いに緊張もありましたが、部屋の片づけから始め、色んな援助をさせて頂いているうちに、「あんたはよう気がつく」 と訪問を楽しみにして頂けるようになりました。訪問の度に頂く笑顔は本当に嬉しく、次の仕事への最高のエネルギーになりました。
他にも、初めは歩けなかった高齢者が訪問を重ねるうちに少しずつ歩けるようになられるなど、もう出来ないと諦めらておられたことが出来るようになり、自信を回復される姿を見ると、「お役に立ててよかった」 とやりがいを感じます。
◆介護の中で心がけているのはどんなことですか
まず私自身が明るく元気に訪問し、高齢者にも明るく元気になってもらいたいということです。その一方で、あまり利用者の方の事情にのめり込んでしまわないように(笑)という自制も働かせています。このバランスが難しいですね。
◆家庭を持っておられますが、仕事との両立という点で苦労はありますか
両立ということは特に意識していませんが、忙しくても会話の時間はとるよう心がけていますし、それができない時でも子供は働いているのがママや(笑)と理解を示してくれます。
◆介護制度について国や自治体に求めたいのはどんな点ですか
一言でいえば、税金を取るのは構わないが本当に必要な所に使ってほしいということです。特に、戦争を潜り抜け、戦後も働きづめに働き、そうして今、日々の食事も始末しながら慎ましく暮らしておられる高齢者の姿を見ると、福祉や介護の分野にもっと予算を注いでほしいと願わずにいられません。
私たち介護労働者の立場から言えば、この分野の働き手が不足している原因には、単に仕事に見合う給料がもらえないというだけでなく、先ほど言ったような制度運用面での矛盾、つまり、「援助してあげたくても出来ない」 というストレスがあるのではないかと思います。この点も早急に改善してほしいですね。少しずつましにはなっていますが、速度が遅すぎます。
◆介護労働者として今後の抱負はありますか
私は訪問介護の仕事が好きです。高齢者が長年馴染んでこられた家で昔ながらの生活を続け、最後まで安心して暮らしてほしい、その手助けをこれからも続けたい ― これが抱負といえば抱負です。
◆ありがとうございました。これからも、今の日本を築いてこられた高齢者が笑顔で暮らせるよう、大変なお仕事ですが、頑張って下さい!
2010年10月15日(134号)