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第一線従事者に聞く
     
 2000年春の介護保険制度発足から10年余が経ちました。この間、「利用者が必要に応じてサービスを選べるようになった」 と歓迎の声があがる反面、当初指摘された問題点(@国民への一層の経済負担 A介護従事者への一層の労働負担 B事業者として福祉と営利を両立させる困難)は依然解決されないままです。そんな中でも 「必要な人に必要な介護を」 と奮闘する介護労働者。そのうち施設ヘルパーとして10年余の経験を持つ佐藤曜子さんと中居重行さんを 「多根介護老人保健施設てんぽーざん」(築港3)に訪ね、仕事の実情やその中で感じる問題点、苦労、喜びなどを訊きました。
                      
入浴の介助をする佐藤さん(左)と中居さん=築港3丁目の 「多根介護老人保健施設てんぽーざん」 で
        
人相手の仕事に喜び
個別対応の困難痛感
国は実態に即した基準作れ

 同施設は2000年春の同制度発足と同時に開設。病院治療を終えて症状が安定した高齢者や、入院するほどではないが一定の介護などを必要とする要介護1〜5の高齢者が、リハビリなどを通して家庭に復帰するための施設です。二人はこの中の認知症対応フロアで働いています。
  佐藤さんは香川県生まれの40歳。短大の夏休み課題で特養ホームへ研修に行き、高齢者が介護を受けながら懸命に生きる姿に衝撃を受け、OLを経て専門学校で介護福祉士の資格を得、2000年春にここへ就職。認知症対応でないフロアや病棟(同建物内)勤務を経て2カ月前にこのフロアへ移りました。ケアマネジャーの資格もあります。
  一方の中居さんは大阪生まれの31歳。親戚に介護関係者が多く、その世話を受けた高齢者が喜ぶ姿を見て中学時代に 「人に関わる仕事を」 と決意。高卒後に専門学校で介護福祉士の資格を得、佐藤さんと同年にここへ就職しました。やはり病棟勤務を経験してからこのフロアに移って8年。ケアマネジャーの資格も持っています。

仕事の中で心がけているのはどんなことですか?
 佐藤 この仕事は人と接している仕事だということをまず意識しています。例えば排便介助でも人≠トイレに連れて行っているということを忘れないようにしています。また高齢者がケガをしたら症状が一段悪化する事が多いので、輪番で自分が見守り役になった時には安全確保に徹するよう肝に銘じています。
 中居 しんどい時やイライラする時もありますが、その日のうちに振り返って原因を探り、直せるところは直すよう心がけています。それと、常に100パーセントではパンクするので80〜90パーセントを意識しています。安全確保については佐藤さんと同じですが、加えて、事故はどんなに注意していても起こり得るということをご家族にも理解して頂けるよう伝えています。

◆仕事の中で 「辛い」 と感じることはありますか?
 佐藤 居宅介護と違って入浴や食事の時間が一律など、個別に対応してあげられない辛さ、歯がゆさがあります。また認知症の方の場合、同じ事をしたり言ったりしても、その時の体調や時刻や季節で反応が異なり、抵抗≠ウれて戸惑うこともしばしばです。
 中居 佐藤さんと同じで、複数を複数で看ることによるもどかしさは感じます。また一人ひとりの 「こうしてほしい」 という内容を、実際に出来るか出来ないかは別にして、せめてケアプランには入れてほしいけれど、今の制度では様々な制約からそれ自体難しいということも辛く感じます。

◆逆に喜びややりがいを感じるのは?
 佐藤 高齢者の方の笑顔を見た時ですね。「たとえ一瞬でも心地よく感じてもらえた!」 と本当に嬉しくなります。また以前いた認知症対応でないフロアでは、状態が良くなって家族と一緒に帰られる姿に 「やった!」 と達成感を味わうことができました。
 中居 思うように行かないことが多い中で、試行錯誤を経て、あるいは先輩の助言を得て、「こういうやり方ならうまく行く」 という方法を見つけた時ですね。例えば家族のことが気になっている方には 「娘さんが来られるから」 などと声をかけることでスムーズに動いて頂けるということがありました。また 「ピアノが弾ける」 などそれまで知らなかった面を知って、その方への認識が一層深まった時も嬉しいです。

◆介護保険制度についてどう思いますか?
 中居 この制度が発足する前(措置制度の時)と比べて、介護を利用する側の満足度が向上したのか、疑問です。その反面、選ばれる側の介護プロとしての意識は向上したと思います。

◆その中で国に求めたいことは?
 中居 まず、この制度の窓口すら知らない人がおられるので、せめて施設や方法を選べるところまでは辿り着けるよう情報提供してほしいです。
  それと、施設介護では 「高齢者何人に対して何人以上の介護者が必要」 という基準がありますが、その最低基準では充分な介護はできません。一方、その基準まで職員数を減らしても施設経営は成り立ちにくいという矛盾もあります。これは実態を見ずに書類だけで基準が作られていることと、根本的には予算の不充分さがあると思います。ですから、まずは充分な予算を介護に回してほしいです。
  さらに、「介護の仕事はしんどい」 というマイナスイメージが人材不足の要因にもなっていますが、「介護は人相手のやりがいある仕事」 という宣伝をもっと強めてほしいですね。

◆ところで家庭との関係で苦労はありますか?
 佐藤 夫も同じ介護関連の仕事なので情報交換して高め合えるという点ではプラスになっていますが、不規則勤務ですれ違いが多いのが辛い(笑)ですね。
 中居 早番や遅番の時は子供(2歳と0歳)と離れる寂しさがあります。

◆今後の抱負を
 佐藤 一人一人を多面的に見られるようになりたい。例えばその方の歴史や認知症以外の持病なども知り、更に実際に合った接し方ができればと思っています。また認知症の方は思っている事を口に出せない方が多いので、それに気付き、感じてあげられる介護者になりたいと思っています。
 中居 去年、ケアマネの資格を取るため居宅介護の研修に行ったことで、同じ介護でも知らない事がまだまだあると感じ、もっと色々な面を知りたいと思いました。また、10年間で学んだ事をこれからは経験の浅い人に還元していきたい、つまり学び続けながらも伝えられることは伝えていきたいと思っています。

◆他に何かアピールしたいことがあれば
 佐藤 人間相手の仕事では 「諦めたらアカン!」 ということです。例えばある人に対して 「何べん言わせるの?」 と思う時もありますが、そんな時は自分で努力するだけでなく、他の人の助けも借りて、ある場合には他の人に委ねてでも、つまりチームとして総合的にその人を看、改善してあげることが大事なのだと最近思うようになりました。
 中居 妻が仕事に理解を持ち、家庭を守ってくれているお陰で仕事に打ち込める ― このことをぜひ書いておいて下さい(笑)。

了解しました(笑)。これからも、今日の日本を築かれた高齢者が笑顔で過ごせるよう、大変なお仕事ですが、頑張って下さい!

2010年12月15日(136号)

 
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