「初夏は田植え、秋は稲刈り、冬は締め縄作りと試食会。米作りを通じ、四季を通じて地域の老若男女が触れ合う―こんな素晴らしい活動が港区で行なわれていることに感銘を受けました」 との読者(77歳男性)からの一報を受け、その取り組みを担う磯路地区の人たちを訪ねました。
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@子供の食育 A世代間交流 B地域間交流―など重層的な効果が期待され、注目を集める磯路地域の米作り活動(写真は兵庫県の農場での稲刈りを終えた参加者) |
磯路連合こども会相談役の佐野耕司さん(58)、会長の西田武司さん(45)によると、この 「米作り体験」 活動が生まれたのは、三つに分かれていた同地区の子供会が平成14年に統一されて以降、続いていた試行錯誤がようやく落ち着いてからのことでした。
◆「これ何?」 に驚き
きっかけは平成17年末の 「締め縄づくり」(磯路ネットワーク委員会主催)。稲穂を見た子供たちの 「これ何?」 の言葉に 「え? 今の子供らは毎日食べてるお米の元の姿を見た事がないんか」 と驚いたことでした。
さっそくこども会役員の間で 「それなら大人と子供が一緒に米を作ってみたらどやろ」 「稲が生長する様子が分かって最高の食育になるで」 と話が進み、区内で会社員をしながら農業をしていた男性の紹介で兵庫県の共同農場と交渉、1反を借りることになりました。
そうして翌18年6月、同会の5周年行事として 「田植え体験」 が、10月には 「稲刈り体験」 が行なわれたのです。その後、同20年、22年にも田植えと稲刈りを実施。参加者は小学生を中心に延べ千人に迫り、乳児から80代後半までの幅広い年齢層に及びました。
◆農家の指導で作業
農場での作業には地元農家の指導を受け、例えば田植えでは 「糸を目印に整然と」 「苗植えは手指の第二関節くらいの深さまで」 など、稲刈りでは 「鎌は手前へ引く」 「茎は3本ずつ束ねる」 などを教わりました。
田圃(たんぼ)には長ズボンにシャツ、長靴などで入りますが、子供らは初め気持ち悪がるものの、すぐ平気になり、夢中で植えたり刈ったり。田植えの後には案山子を数体作って立てました。
ある高齢男性は、「子供のころ田舎で育ち、米作りを手伝ってたんや」 と生き生きした表情で子供たちに教えていたそうで、「米作りが世代間交流にもなっていることが実感される光景やった」 と佐野さんら。
作業後は皆でバーベキューを楽しみますが、子供らは周辺の草地に入り、枝豆、栗、柿を採ったりバッタを捕まえたり。近くの牧場から漂う糞の臭いにもすぐ慣れていました。
◆試食会や締め縄作り
収穫した稲は地元農家がしばらく天日に干した後、精米してくれますが、それは17〜8袋(1袋=30キロ)にもなります。そうして年末には刈り取った藁(わら)を活用しての 「締め縄づくり」 が、年明けには収穫した米を使ってカレーなどの 「試食会」 が行なわれます。
因みにこの米作りは無農薬で、日常の雑草取り、害虫駆除などは地元農家が引き受けてくれます。こうして磯路の米作りは一年通じての取り組みとなり、子供達はもちろん、大人にとっても日頃口にするお米の生育を肌で感じ、米作農家の苦労に思いを馳せることができる、いわば地域挙げての食育の場、さらには世代間交流、地域間交流の場となってきたのです。
◆夢は秋の収穫祭
とはいえ、こうした活動に出費は付き物。「農場の管理費や往復のバス代などに多額の費用がかかり、その財源の確保が一番苦労するところ」 と西田さんら。参加費はそのつど徴収しますが 「とても足りない」 ので、毎月一回の古紙回収などで補っています。
今後については 「活動の裾野を広げながら継続し、ゆくゆくは有機野菜づくりなどにも挑戦したい。秋の収穫祭=\これが皆の夢です」。二人の瞳が少年のように輝いていました。
◆「温かく素敵な活動」
苦労を伴いながらも 「子供らのため、地域のため」 と続けられる米作り。昨秋の稲刈りに参加した吉田美幸(みゆき)さん(港区ボランティアビューロー)の感想が、この取り組みに流れる基調音のように聞こえました。
「見渡す限りの青空とおいしい空気。子供たちは慣れない鎌での稲刈り作業に悪戦苦闘、田圃の泥濘(ぬかるみ)に足を捕られて泣き出す子もいましたが、みんなのびのび楽しそう。シニア世代が先生≠ノなられている光景がとても微笑(ほほえ)ましく感じられました。田植えに始まり、案山子作り、稲刈り、締め縄作り、試食会―と一年を通じて世代を越えた住民同士の交流が行なわれる磯路のお米作り。子供たちへの食育というだけでなく、ご近所付き合いが希薄になってきた昨今、地域ぐるみのとても温かく素敵な取り組みに思われました」。
2011年3月15日(139号)