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 「♪君の行く道は果てしなく遠い―」(昭和41年『年若者たち』)。いつの時代にも若者は世の希望であり地域の宝です。どんな暗い世相でも純粋な心とまっすぐな行動で人々を励ましてきました。今、先の見通せない平成不況の只中で、世のため地域のため、家族のため自分のために何が出来るのかを探りつつ、懸命に生きる港区の若者たちを追いました。シリーズ第5回は、「大変な時代だからこそ働く者の連帯を!」 と金属労働と組合活動に情熱を注ぐ一人の青年にスポットを当てました。

            

 シュー、ガチャン、ゴーッ。様々な金属加工音が交錯する広い工場の一角で、フレクションという大きな機械に向かって座り、ボルトの頭を成型する作業に就(つ)いているのは入村高司さん(25)(市岡)。ここ昌一金属兜沚闕H場に勤めて2年半。全国金属機械労働組合港合同・昌一金属支部の組合員でもあります。

◆神経を集中して
  入村さんが携わっているのは 「熱間鍛造(ねっかんたんぞう)」 とか 「ボルトの頭打ち」 と呼ばれる作業。1300度ほどに熱せられ真っ赤になって受け皿へ滑り落ちてくる小さな鉄の塊をりハサミでつまみ、前方にある小さな “窯” のような空間に素早く差し入れ、上の金型と下の金型で挟むことによってボルトの頭(円形)を形作るのです。金型が熱くなり過ぎないよう、一回挟む度に蒸気で冷やしながらの作業。油断すると火傷などの危険もあるので神経を集中しなければなりません。
  「機械はコンピューター制御ですが、焼きの温度や、金型で挟む圧力の強さはその時々の気温や湿度に応じて微妙に調整しなければなりません。技術と勘を要する仕事ですが、社会に役立つ事業の一端を担っていることに誇りを感じます」。

◆24歳での転機
  入村さんは昭和60年、住之江区に生まれ、定時制工業高校に通いながら就職先を探し、市内の金属系企業に就職。2,3年勤めた後、昌一金属の募集に応じ、採用されました。24歳での転機でした。
  昌一金属は電線や電柱に付属する金物の製造・販売を事業とする老舗メーカーで、従業員は約80人。日本経済の構造的不況の中、原材料費高騰と製品価格低迷の板挟みで金属系中小企業はどこも過酷な状況に置かれていますが、高度な技術と生産性で公益性の高い製品を提供し続けることで生き残ってきました。

◆信頼関係の中で

ボルトの頭を成型する作業に就く入村高司さん。公益性の高い製品づくりは労働者としての大きな誇りだ

  56年の歴史の中で、経営者と労働者が対等に話し合える信頼関係、安心して働き続けられる職場環境を構築。その表われとして代を継いでの従業員も見られ、入村さん自身、祖母、母に続く三代目。また新入社員はそのまま労働組合へ加入することになっており、入村さんも試用期間後すぐに活動を始めました。
  仕事は朝8時半から夕方5時前までですが、組合員としては昼休みに他労組の支援集会に参加し、終業後は集会や学習会に出席することもあります。一年を通じては春闘や一時金闘争がありますが、要求は賃金だけでなく職場環境や労働条件の向上も掲げます。今秋からは編集委員に加わり、機関紙発行に携わるようになりました。

◆皆で決め、皆で行動

組合事務所で談笑する入村高司さん(左)。より働きやすい職場づくりへコミュニケーションは欠かせない

  そうした活動の中で次第に労働組合というものを理解できるようになったという入村さん。前の会社の組合は形だけでしたが、ここでは 「一人ひとりの声をきいて方針や要求を決め、それに基づいて皆で行動し、闘争が一段落した後も、どういう経過でどんな結果になり、その中でどんな教訓が得られたかなどをきちんと報告してくれる」 ことがとても新鮮だったといいます。「だから、どんな結果になっても納得でき、勉強になり、闘争の度に成長を実感できました」。
  また 「自由に意見が述べられるゆうても全体の利益を考えて整理して発言するのが労働者なんや」 と先輩から教わった時には 「自分にはなかった新しい世界や」 と感激したそうです。

◆労働者は自信を
  他労組が百数十日ものストライキで要求を勝ち取った経験を聞いた時には、「労働者は弱い存在やない、労働者がいてるから会社も地域も国も動くんや。もっと自信を持ってええんや」 と目からウロコの思いでした。そして今、日本の労働運動が停滞していることに関連して次のような思いも持つに至りました。
  「僕たちが集会やデモをしていると、『怖い』 などのイメージを持たれる方がおられるかもしれませんが、労働組合は助け合いと励まし合いに溢れた温かな集まり。自分たちの利益だけでなく、地域や国の在(あ)り方などについても学び、先頭に立って行動する組織であることを知ってほしい」。

◆率直さと明るさで

他労組の支援に参加する入村高司さん(中央)。連帯は労働者階級の優れた資質だ
  そんな入村さんへの期待を、先輩労働者(班長)であり先輩組合員(同支部委員長)でも ある中崎典和さん(三先)は次のように語ります。
  「入村君は前の会社での経験を土台に、技術研究も重ねながら堅実に働いてくれ、貴重な戦力になっています。また難しい問題が生じても勝手に処理せず、私に相談しながら進めてくれます。その一方で彼は、はっきり物を言う率直さと明るさで職場のムードメーカー的存在。組合でも同じように頑張っており、今後、その率直さと明るさを生かし、堅実さを一層磨くことで、どちらの分野でも中軸を担うようになってくれればと思っています」

◆同世代にエール
  そんな期待の中、休日はパチンコやデートを楽しみ、7年越しの交際相手とは 「28歳までに結婚しょうなと」 約束しているという、ごく普通の青年の顔を見せる入村高司さん。「今、特に若い人は仕事探しに苦労していると思いますが、諦(あきら)めずに求め続け、見つけたらそこで何か技術を身につけること、同時に職場や社会のため仲間と力を合わせることが大切です。それが引いては他の企業の労働者や職に就けない人たちの利益にも繋(つな)がるはずですから」 と同世代へのエールも忘れません。その若さと純粋さ、何より一点きらりと光る金属労働者の心意気で、世のため人のため、自分のため家族のためにますます輝き続けてほしい − そう願わずにおれません。

 
 
 
 
 
 
 
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