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 「♪君の行く道は希望へと続く―」(昭和41年『若者たち』)。いつの時代にも若者は世の希望であり地域の宝です。どんな暗い世相でも純粋な心とまっすぐな行動で人々を励ましてきました。今、先の見通せない平成不況の只中で、世のため地域のため、家族のため自分のために何が出来るのかを探りつつ、懸命に生きる港区の若者たちを追いました。シリーズ第6回は、「地図に残る丁寧で美しい仕事を!」 とタイル張り技術に情熱を燃やす一人の青年にスポットを当てました。

タイル張り職人 濱田朋大(はまだともひろ)さん(25)(弁天)
            
「伝統のタイル技術を後世に」 ―家族と力合わせて丁寧で美しい仕事に情熱を燃やす濱田朋大さん(右)=3月30日、鶴見区の現場で父・宗禄さん(中)、叔父・満さん(左)と

技能五輪で金メダル

3代目の誇り、家族と力合わせ 伝統の技術を後世へ

 美しいタイルが玄関口の床を几帳面に彩っていきます。墨壺と針と糸を使って墨出し(割り付け)をし、それに沿って下地となるモルタルを鏝で均一に塗りつけ、その上からタイルを一枚一枚張り込んでいくのです。それらをゴムハンマーで押さえ、隙間(目地)に目地材を詰め終わると、作業は一段落しました。
  ここは鶴見区の住宅建設現場。父や叔父と一緒に腰を下ろし、安全帽と作業着姿で一息ついているのは濱田朋大さん。タイル工事を主業務とする浜田タイル梶i弁天3)の3代目です。
  この日は元請けの設計に沿っての作業でしたが、「デザインなど一から請け負う仕事もあります」 と朋大さん。タイル張りの仕事について語ってくれました。

◆細かな調整が必要
  「大事なのは下地になるモルタルづくり。材料となるセメントの割合を、冬は多めに、夏は少なめに、水の割合も、水はけのよい土質なら多めに、水はけの悪い土質なら少なめに―といった調整をする必要があります。こういう細かい調整を怠ると、見栄えや強度はもちろん、作業性(効率)も落ちてしまいます」
  「作業全体に高い精度が要求されるだけでなく、その過程がずっと見える部分、つまり仕上げであり、いわば地図に残る仕事≠ナす。神経も使いますが、誇りも感じ、やり終えた後の達成感は格別です」
  モダンで美しい素材として大正から昭和初期に登場し、日本建築史の一翼を担ってきたタイル。その職人の心と技を受け継ぎ発展させたいとの情熱が、穏やかな表情から湧き出る言葉の端々に燃えていました。

◆タイル一色の環境
技能五輪で墨出し(割り付 け)をする濱田朋大さん=平成21年10月、日立市で

  朋大さんは弁天生まれの25歳。弁天小、市岡中から市岡高を経て浜田タイルに入社しました。同社は昭和33年に祖父が個人創業。高度経済成長による建築ブームを背景に、数人の職人を住み込ませるなどして事業を拡大し、昭和46年に法人化。現在は代表取締役の父・宗禄さん(53)(二級技能士)を中心に、叔父・満さん(49)、兄・泰大さん(28)(一級技能士)、それに朋大さんを社員とする典型的な家族経営ですが、同業界のデザインコンテスト(昭和61年)で優秀な成績を収めるなど、その正確で美しい仕事は折り紙つきです。
  そんなタイル一色の環境で育ったためか、「中学生頃から漠然と、自分もタイル職人になると思っていた」 という朋大さんですが、高卒時には家族に後継ぎを宣言。愛知県の専門校に1年間在籍し、平成18年には二級技能士、21年には一級技能士―と着実に技術者の地歩を固めていきました。そして同年10月、全国の青年技術者が一堂に技を競う 「技能五輪全国大会」 のタイル張り職種で見事金メダルを獲得したのです。

◆血筋プラス経験
 同大会では各府県推薦の精鋭7名が茨城県日立市に集い、あらゆる角度から技能を試されましたが、朋大さんの作品は 「施工が丁寧で美しく、見事な仕上がり」 と絶賛されました。
 優勝の要因を朋大さんは 「一言でいえば血筋プラス経験。他の選手は社員として簡単な壁タイル張りなどしか経験していませんが、自分は町のタイル屋≠フ3代目として施主の複雑な要求にも応じながらやってきました。専門校では基本を学びますが、実際の作業での匙加減は体で覚えるしかありません。その積み重ねの差が出たのでしょう」 と振り返っています。

「業界発展へ貢献を」 期待語る得意先ら

◆規則正しい生活
タイル工事に携わる朋大さん(上は床タイルの下地となるモルタルをコテで馴らす作業、下 は張り付けた床タイルをゴムハンマーで押さえる作業)

  そんな快挙にも以前と変わらず毎朝6時に起床し、8時には現場へ入る朋大さん。その点では父・宗禄さんも 「きちんと私の言うことを守り、真面目にやってきた」 と太鼓判。「私自身も親父から仕事の心構えや段取り、技術など色んな事を受け継いできましたが、そういう昔の事から理解し、後世に伝え残してほしい」。
 次期社長として営業・積算・デザイン・設計を担う兄の泰大さんも 「弟に活躍の場を作ってやるのが自分の役目。僕の頭の中にあるものを形にし、地図に残していってほしい」。
また、3代に亘って取引があるという 叶シ村工務店(弁天3)代表取締役の西村浩さん(71)は 「仕事への情熱は半端やない。遊ぶ暇があったら道具探しをしているほど。真面目で一生懸命や。更に技術を磨いて業界発展に尽くし、うちにもサービスしてや(笑)」。
 それぞれの言葉に温かな気遣いと期待が籠ります。



◆世界で金メダルの夢

兄・泰大さん
   そんな中、「時代が変わっても伝統の技術を守り、後世に伝え残していきたい」 「分業化が進む中でもタイル全般に通じていることに拘っていきたい」 「父が早くに祖父を継いだように、自分も兄と力を合わせて早く父を継ぎ、安心させたい」 「4代目(笑)が出来たら(隔年開催のため自分が出られなかった)技能五輪世界大会で日本初の金メダルを」 と夢や抱負を語り、「今は仕事そのものがない厳しい社会。目標を持って頑張れば実現できる世の中に」 と同世代への気遣いも示す朋大さん。その若さと純粋さ、何よりタイル技術への燃えるような情熱で、世のため地域のため、自分のため家族のためにますます輝き続けてほしい―そう願わずにおれません。
 浜田タイル株式会社 弁天3‐4‐1、 06-6571-4078
 
 
 
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